東京・銀座にありながら、神奈川・奥湯河原の源泉より直送される温泉を楽しめるスーパーホテルの旗艦店「Premier銀座」。2024年1月からキャッシュレス決済を推進中
スーパーホテル本社の受付に漂う、爽やかな香り。すっきりと身心がリフレッシュする心地良さは、ホテルロビーで宿泊客が体感する気分と同じだ。
「天然檜のアロマで、岐阜県東白川村と提携した間伐材を活用する取り組みの一つです」と笑顔で語るのは、代表取締役社長の山本健策氏である。右肩上がりの売上高がコロナ禍で一転、2021年3月期は前年比133億円減の209億円まで落ち込んだ中(【図表】)、2020年10月に社長のバトンを承継。アフターコロナの反転攻勢で初めて400億円を超え、2024年3月期は前年比10%超の過去最高益を記録。店舗数も海外含め172店舗と増え続けている。
【図表】スーパーホテルの売上高の推移
出所 : スーパーホテル会社概要よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
逆境を一気に跳ね返した原動力は、「Natural, Organic, Smart」をコンセプトに掲げるリブランディングの推進だ。調湿・消臭・抗菌効果のある珪藻土を天井に塗布した快適な客室や、檜アロマが香るロビー、疲れを癒す天然温泉。有機農法の食材にこだわる健康朝食。シンプルでスムーズな手続きと、心からのおもてなしの接客サービス。“ビジネスマン向けホテル”のイメージが強かった同社だが、健康でサステナブルなライフスタイルを提案するホテルへと進化を遂げている。
「リブランディングでは、基本コンセプトである『ロハス(環境・健康)』の価値が、より分かりやすく伝わるように心掛けました」と言う山本氏は、厳しい環境だからこそ見えたことがあった、と振り返る。
「コロナ禍前は好業績が続いてインバウンド需要も多く、“どんぶり勘定”でもやっていけるところがありました。このぜい肉体質を筋肉質に変え、高い利益率を目指そうと、BS(貸借対照表)で1項目ずつ無駄な経費を洗い出し、PL(損益計算書)で店舗の強み・弱みを分析。現状と現場の改善に取り組んだ集積が、爆発的な成果につながりました」
新たな挑戦も始動した。全店舗で推進する地域貢献・連携プロジェクトだ。地元の魅力を伝え、宿泊客との架け橋になる「ご当地結びスタ※1」や、飲食店とコラボしたグルメ券付き「食と泊」セットプランを展開。移動が制限され、閉塞感が募る地域の人々を応援する「安近短」小旅行プランも企画し、無料ウェルカムバーや天然温泉、健康朝食を満喫して「ホテルで楽しく過ごす」価値を提供。地域活性化に貢献し顧客満足度も高まった。
地元客という新ターゲットの開拓は、単身女性の「ビジホ飲み※2」需要や、遊園地などと提携するファミリー向けプランにも拡大した。
実は、コロナ後もリモートワークの浸透でビジネス客は減少し続けている。苦境を乗り越える戦略は「ビジネスホテルからの脱却」。遠隔地のビジネス・交流客に加え、地域の女性・ファミリー・子どもなど、それぞれのライフスタイルに合うホテルづくりだ。
「創業当初、『1泊朝食付き4980円』という安さに注目が集まりましたが、ずっと『安全・清潔・ぐっすり眠れる』『お客さまが元気になる』ホテルを目指してきました。その原点を絶えず見つめ直して、理念浸透経営やロハスブランド、環境経営を推進することが成長の原動力になってきました。今は格安ホテルと呼ばれることもなくなり、コンセプトが伝わり始めたと実感しています」(山本氏)
※1 地域と宿泊客の架け橋となるホテルアテンダント。お土産・ラーメンなど、一人一人が得意分野を示す「Myご当地バッジ」を身に付けて魅力情報を提供
※2 気軽に利用できるビジネスホテルでお酒を飲んだり好きなものを食べたりし、自宅以外で時間を気にせず気分転換を楽しむ過ごし方
The post 「安さ」ではなく「五感」で選ばれるホテルへ first appeared on メディアサイト「TCG Review」.