【第3回の趣旨】
アグリサポート研究会(第7期)は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」がコンセプトである。当研究会では、アグリ関連分野の成長企業を経営の視点から研究し、成功のポイントを学ぶ。
第3回は、農業環境が非常に厳しい沖縄・宮古島の2社に講演いただき、視察も行った。宮古島の農業環境が厳しい要因の1つ目は「土壌」。石灰岩中心で土層が浅く、干害を受けやすい。2つ目は「水」。土壌の透水性が高く用水が安定しない。
この環境下で、「観光農園ユートピアファーム宮古島」として観光に可能性を見いだす大嶺ファームと、体験型農業で価値創造を行うオルタナティブファーム宮古の2社から、独自のビジネスモデルと成長のポイントについて学んだ。
開催日時:2023年1月26日、27日(沖縄開催)
代表取締役 松本 克也 氏
はじめに
2012年設立のオルタナティブファーム宮古は、沖縄・宮古島で、有機サトウキビ・有機バナナ栽培、観光体験案内、黒糖蜜加工製品の製造販売を行う農業生産法人である。
自動車メーカーの研究職だった松本克也氏が本州から移住し、39歳のときに立ち上げた。松本氏は、宮古島の特産物・マンゴーではなく、宮古島では“当たり前”のサトウキビに注目し、サトウキビの有機栽培を開始。サトウキビを原料とする黒糖をもっと身近なものにすべく、黒糖加工品の製造と、おいしく学べる体験型観光も手掛けている。
同社の事業は、サトウキビの真価を広く伝え、黒糖づくりという伝統文化を宮古島に伝承していくための「価値創造事業」であると言える。
松本氏から説明を受け、研究会参加者は全員、黒糖づくりやサトウキビジュースづくりを体験
まなびのポイント 1:志に基づく明確なビジョン~健康×食×自然環境×経済~
松本氏は「農薬・化学肥料に依存した野菜を作り続け、食べ続けていいのか?」「農薬・化学肥料による土壌・水質汚染を続けていいのか?」という疑問から、「健全な食を普及・啓蒙していきたい」「健全な自然環境を取り戻したい」と考えた。また、「生産性向上と低価格化」偏重の経済によって、命の大切さを見失っているのではないかとの危機感から、「健全な経済の流れを取り戻したい」とも感じていた。
そこで、こうしたビジョンをベースに事業を計画。無農薬・無化学肥料の野菜や果樹、加工品を生産・製造して販売実績を積み上げる「モデルケース事業」と、広報活動や宿泊型農業体験などによる「普及・啓蒙事業」を開始した。
サトウキビ本来の美味しさを濃縮した同社の加工品「美ら蜜バタートースト」
まなびのポイント 2:事業ポートフォリオの設計と商品・環境分析~オンリーワン商品の開発~
同社は事業ポートフォリオを設計している(概念図)。事業群を4象限で整理し、やるべきことを明確化した後に、実行することを絞る。経営資本が多くないからこそ、「やるべきこと(理想)」と「実際に行うこと(現実)」を明確にすることで、事業の成功率が高まる。
また、商品・環境分析により、オンリーワン商品を開発している(事業事例)。まずは事業別に商品分析を行い、何を商品化するのかを決める(利益が出るか、提供価値は何か、作れるか)。次に課題とリスクの整理をし、対策を立案・実行する。例えば、観光体験においても反収比較(作物の1反=約10a当たりの収量の比較)を実施。観光農園の面積に対し、観光サービスの売り上げがいくらかで原価率を算出し、「団体客の集客強化」などの対策に落とし込んでいる。
また、商品コンセプトを明確化し、ストーリーづくりも行う。商品や素材の魅力を分析することで、オンリーワン商品の開発へつなげている。さらに、InstagramなどのSNSを活用したデジタルマーケティングにも取り組んでいる。
まなびのポイント 3:アグリビジネス×観光産業×DX~CXとデジタル活用~
同社は今後、食育活動を主軸に、事業領域を超える取り組みと総合力を強化していくという。コロナ禍の状況下、2020年に始めた新しい取り組み「オンライン体験」(黒糖づくりをZoomでライブ配信するなど)や、幼稚園・学校・企業などへの「出張型体験」を発展させ、教育視点を強化することによって差別化を図り、「農業×観光×DX」でビジネスモデルを進化させていく。
具体的な施策は、次の3つである。
①5感をフル活用して「美味しく・楽しく・学べる農業体験型食育プログラム」の展開でCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)を創造。
②「体験型食育」の見直しと改善で集客を強化し、ビジネスモデルを進化させて収益モデルを実現。
③リモート体験と出張体験でCXの事業モデルを拡大し、収益性を向上。
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