近年、さまざまな媒体で「地域創生」という言葉を耳にするようになった。地域創生は主に、人口の一極化防止、地方の雇用機会創出、地域活性化を指すが、本稿ではその取り組みの1つであるインバウンド(訪日外客)に注目したい。
インバウンドは地域活性化を実現し、新たな経済循環を生み出す可能性を秘めている。
JNTO(日本政府観光局)の「訪日外客統計」(2023年10月推計値)によると、2023年の訪日外客数は2019年同月比で100.8%を超え、コロナ禍後に初めて2019年同月を超えた。2024年以降、さらなる伸長が見込まれる日本経済において、インバウンドは単なる外国人の受け入れではなくなってきているのだ。
行政を中心に、制度面・設備面でさまざまな施策を行った結果、2019年の訪日外客数は約3200万人まで増加した。だが、増加した訪日外客数による恩恵は、首都圏や一部の都道府県のみが受けてきたのが現状である。
しかし、近年は観光庁を中心に「地方における付加価値の高いインバウンド観光地づくり」をはじめとした、インバウンドを通じた地域活性化が推進されている。首都圏から地方へのシフトに向けて、全国で訪日外客の受け入れ拡大に向けた取り組みが強化されているのだ。
多くのインバウンド施策が行われる中、成功した事例には共通する3つのポイントがある(【図表】)。今後、地方におけるさらなるインバウンドの受入拡大だけでなく、地域創生に向けた施策を検討する上でも非常に重要なポイントである。
【図表】インバウンドを通じた地域創生3つのポイント
出所 : タナベコンサルティング作成
では、【図表】で示したインバウンドや地域創生に向けた取り組みをどのように進めていくべきか。行政が主体となって進めるべき施策なのだろうか。ここで重要なのは、「いつか、誰かが」という考えを持つのではなく、そのエリアを誰よりも理解する行政・企業・地域団体・住民が一丸となって現状を理解し、自発性・自主性を持って課題を分析し、課題に応じた取り組みを推進することだ。
近年では、山梨県南アルプス市の「南アルプス完熟農園」の閉園や、青森県青森市の複合施設「アウガ」の閉店など、地域創生を目指したにもかかわらず失敗に終わってしまった事例も数多くある。失敗の原因として、主に①成功事例の模倣、②地域資源の理解不足、③ビジョンのない取り組み、の3つが挙げられる。
だが、そのような中でも行政・企業・市民が連携し、地域創生に成功した事例はある。ここでは、福岡県久留米市の「久留米まち旅博覧会」という観光プログラムを紹介する。
久留米まち旅博覧会は、2011年の九州新幹線鹿児島ルート全線開業を前に、地元の食文化や自然、歴史などを生かした体験型の観光プログラムとして、久留米市民が開発した観光プログラムである。ほかで成功したプログラムを模倣するのではなく、市民一人一人が「歴史遺産や伝統工芸をどのように活用し、ほかにはない『価値提供』ができるか」を考え抜くことで、旅行者にとって非常に満足度の高い観光商品の造成に成功した。「久留米ブランド」の確立に寄与した取り組みである。
ほかにも、市民や行政、企業などさまざまなプレーヤーが連携し、多言語化や受け入れ環境の整備など、外国人旅行者に選ばれるための「情報発信」、メディアやSNSを活用した「他者目線」での必要情報の配信など、多くの活動につながっている。2013年には約500万人であった久留米市の観光客数も、2019年には約600万人まで増加した。
世界で広がる地域プロデュースと日本での定着
ここまで述べてきたように、地域創生、地域プロデュースに参画するプレーヤーは非常に増えている。失敗事例から学べるように、単なる先進事例の模倣やビジョンのない取り組みは、どれだけ資源・資金を投じたとしてもその地域に根付くことは難しく、一時の施策になる可能性が高い。
一方で、現状の課題からビジョンまで明確にした上で、行政・企業など参画するプレーヤーが目指すべき方向性を共有することにより、新たな価値を提供することができる。筆者が特にポイントだと考えるのは、取り組みの進め方として、行政の立ち位置が、施策立案・実行を進めるプレーヤーから、企業や住民を巻き込み新たな価値を生み出す「プロデューサー」に変化することである。
行政は地域創生を推進しなければならない立場であるが、地域課題が複雑化する中、目指すべき方向性も地域ごとに異なる。そのため、行政がエリアごとの課題・特性から具体的な解決策までを網羅するのは現実的ではないため、企業や地域団体、住民と連携することが重要なのだ。
行政の役割は、あらゆるプレーヤーを巻き込み、課題把握から施策の導入・運用までをプロデュースする存在に変化する必要がある。
久留米森林つつじ公園。久留米ツツジや平戸ツツジなど100種、6万1000株が咲くツツジの名所
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